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第1 章 診断およびサーベイランス
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ1 |
サーベイランスは,推奨されるか? |
定期的な肝細胞癌に対するスクリーニングによって,早期に肝細胞癌が検出され,根治療法につながる。また,予後改善効果をもたらす可能性があるので,サーベイランスを推奨する。 |
強い |
CQ2 |
サーベイランスは,どのような対象にどのような方法で行うか? |
C 型慢性肝疾患患者,B 型慢性肝疾患患者,および非ウイルス性の肝硬変患者が肝細胞癌の定期的スクリーニング対象である。
3~6カ月間隔での腹部超音波検査を主体とし,腫瘍マーカー測定も用いたスクリーニングを軸とする。肝硬変患者などの超高危険群ではdynamic CT またはdynamic MRI の併用も考慮する。 |
強い |
CQ3 |
肝細胞癌の診断に有用な腫瘍マーカーは何か? |
肝細胞癌の補助診断に有用な腫瘍マーカーとして,AFP,PIVKA‒II,AFP‒L3 分画が推奨される。 |
強い |
CQ4 |
肝細胞癌の診断において2 種以上の腫瘍マーカーを測定することは有用か? |
小肝細胞癌の診断においては2 種以上の腫瘍マーカーを測定することが推奨される。 |
強い |
CQ5 |
腫瘍マーカーの測定は,肝細胞癌の治療効果判定の指標として有効か? |
治療前に腫瘍マーカーが上昇している症例において,治療後にその腫瘍マーカーを測定することは,治療効果判定の指標として有効である。 |
強い |
CQ6 |
肝細胞癌の高危険群において,典型的肝細胞癌の診断に診断能が高い検査は何か? |
典型的肝細胞癌の診断のためにはdynamic CT,dynamic MRI,造影超音波検査のいずれかが勧められる。 |
強い |
CQ7 |
Dynamic CT/MRI で典型的所見を示さない肝結節の精査は,何cm 以上から行うのが望ましいか? |
多血性の病変に関しては,1 cm 以上から精査を行うことが望ましい。 |
強い |
CQ8 |
肝硬変患者における早期肝細胞癌の検出において,診断能が高い検査は何か? |
早期肝細胞癌検出の診断能は,Gd‒EOB‒DTPA 造影MRI が高い。 |
強い |
CQ9 |
腎機能および肝機能低下患者における肝腫瘍の診断には,どの検査法が有用か? |
腎機能低下患者における造影CT や造影MRI は,eGFR が30~60 mL/min/1.73 m2 ではGd‒EOB‒DTPA 造影MRI,30 mL/min/1.73 m2 未満ではSPIO 造影MRI,透析患者ではSPIO 造影MRI やdynamic CT の施行を考慮してもよい。 |
弱い |
腎機能が低下し造影 CT や造影MRI が施行できない患者において,拡散強調像を含めた非造 58 影MRI やソナゾイド® 造影を含めた超音波は,安全に施行でき,有用である。 |
弱い |
(Child‒Pugh 分類C 相当の肝機能低下患者における造影CT/MRI について,検査や造影剤の適切な選択に関する研究は不十分である。) |
(補足事項) |
C10 |
肝細胞癌の病期診断に頭部MRI,胸部CT,骨シンチグラフィー,FDG‒PET は必要か? |
肝外転移の危険因子を有する肝細胞癌患者に対して胸部CT,FDG‒PET を施行することは推奨できる。 |
弱い |
骨シンチグラフィーの施行はFDG‒PETが施行できない状況であれば考慮してもよい。 |
弱い |
神経学的所見や肺転移のある肝細胞癌患者に対して,脳転移検索目的の頭部CT/MRI は,施行することを考慮してもよい。 |
弱い |
第2 章 治療アルゴリズム
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ11 |
単発肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か? |
第一選択として肝切除が推奨される。腫瘍径3 cm 以内では,第二選択として焼灼療法も推奨される。 |
強い |
CQ12 |
2,3 個肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か? |
腫瘍径3 cm 以内では肝切除または焼灼療法が推奨される。3 cm 超では第一選択として肝切除,第二選択として塞栓療法が推奨される。 |
強い |
CQ13 |
4 個以上肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か? |
第一選択として塞栓療法が推奨される。第二選択として肝動注化学療法または分子標的治療薬が推奨される。 |
強い |
CQ14 |
肝障害度C(Child‒Pugh 分類C)の肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か? |
肝障害度C(Child‒Pugh 分類C)の肝細胞癌は,ミラノ基準内であれば肝移植が推奨される。 |
強い |
CQ15-1 |
肝細胞癌の骨転移・脳転移に対して放射線治療は有効か? |
骨転移に対して疼痛緩和目的の放射線治療を行うよう推奨される。 |
強い |
脳転移に対しては全脳照射と定位照射の両方あるいは一方を用いて治療を行うよう推奨される。 |
強い |
CQ15-2 |
肝細胞癌の肝外転移(肺転移,副腎転移,リンパ節転移,播種)に対する有効な治療法は何か? |
肝外転移を伴う進行肝細胞癌に対する標準治療は分子標的治療薬である。 |
強い |
肝内病変がない,もしくは良好にコントロールされている場合には,肺転移,副腎転移,リンパ節転移,播種病変に対して局所療法(切除を含む)が選択されることがある。 |
弱い |
CQ16 |
脈管侵襲陽性肝細胞癌に対する有効な治療は何か? |
塞栓療法,肝切除,肝動注化学療法または分子標的治療薬が推奨される。ただし,各症例の条件を考慮して選択する。 |
強い |
第3 章 予防
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ17 |
B 型慢性肝疾患からの肝発癌予防として推奨できる治療法は何か? |
HBV‒DNA 陽性B 型慢性肝炎・肝硬変の肝発癌予防に核酸アナログ製剤が推奨される。 |
強い |
CQ18 |
C 型慢性肝疾患からの肝発癌予防として推奨できる治療法は何か? |
C 型慢性肝炎・代償性C 型肝硬変患者の肝発癌予防にHCV 排除を目的とした抗ウイルス療法が推奨される。 |
強い |
CQ19 |
ウイルス性・非ウイルス性を問わず慢性肝疾患からの肝発癌予防法として推奨できるのは何か? |
コーヒー摂取は,肝発癌リスクを減少させる可能性がある。 |
弱い |
多価不飽和脂肪酸の摂取は,肝発癌リスクを減少させる可能性がある。 |
弱い |
第4 章 手術
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ20 |
肝切除はどのような患者に行うのが適切か? |
肝切除が行われるべき患者は,肝臓に腫瘍が限局しており,個数が3 個以下である場合が望ましい。腫瘍の大きさについては制限がない。一次分枝までの門脈侵襲例は手術適応としてよい。 |
強い |
CQ21 |
肝切除前肝機能の適切な評価法は? |
一般肝機能検査に加えICG 15 分停滞率を測定することを推奨する。手術適応は,これらの値と予定肝切除量とのバランスから決定するのが妥当である。 |
強い |
CQ22 |
安全で合理的な手術術式とは? |
小型の肝細胞癌(5 cm 以下)に対しては,小範囲の系統的切除,あるいは縮小手術としての部分切除(特に肝機能不良例)が選択される。大型の肝細胞癌に対しては2 区域以上の拡大切除(片肝切除を含む)が選択される。 |
強い |
CQ23 |
腹腔鏡下肝切除術の手術適応は? |
肝部分切除術や肝外側区域切除術が可能な肝前下領域(S2, 3, 4, 5, 6)の末梢に存在する5 cm 以下の単発腫瘍が良い適応である。 |
強い |
CQ24 |
肝切除後の予後因子は何か? |
肝切除後の主な予後因子は腫瘍径,腫瘍数,脈管侵襲,肝機能である。 |
なし |
CQ25 |
切除断端距離は予後に寄与するか? |
肝細胞癌に対する肝切除では切除断端距離は必要最低限でよい。 |
強い |
CQ26 |
肝流入血流遮断や中心静脈圧低下は,肝切離中出血量を減少させるか? |
肝流入血流遮断は肝切離中の出血量減少に有効である。 |
強い |
中心静脈圧(CVP)低下は肝切離中出血量減少に有効である。 |
強い |
CQ27 |
肝切除において腹腔ドレーン留置は必要か? |
待機的肝切除において腹腔ドレーンは必ずしも必要としない。 |
強い |
CQ28 |
肝切除前に補助療法を行うか? |
肝細胞癌肝切除後の予後改善を目的とした術前補助療法として推奨できるものはない。 |
弱い |
CQ29 |
肝細胞癌に対する肝移植の適応基準は何か? |
非代償性肝硬変を伴うミラノ基準内の肝細胞癌に対し肝移植が考慮される。 |
強い |
CQ30 |
肝移植前のダウンステージングは肝移植の予後を改善するか? |
肝移植前の肝細胞癌に対するダウンステージングが予後を改善する十分な科学的根拠はない。 |
弱い |
第5 章 穿刺局所療法
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ31 |
穿刺局所療法はどのような患者に行うのが適切か? |
穿刺局所療法の適応はChild‒Pugh 分類A あるいはB の症例で,腫瘍径3 cm 以下,腫瘍数3 個以下である。 |
強い |
CQ32 |
各穿刺療法の選択は,どのように行うのが適切か? |
穿刺局所療法としてRFA が推奨される。 |
強い |
消化管穿孔が危惧される場合には人工腹水下RFA やPEI は選択の一つである。 |
弱い |
CQ33 |
穿刺局所療法にTACE を併用することで予後を改善できるか? |
比較的大型の腫瘍に焼灼療法を適用する場合には,TACE との併用で予後改善が期待できる。 |
弱い |
CQ34 |
造影超音波やfusion imaging は局所治療の治療ガイドとして有用か? |
造影超音波やfusion imaging はB モードで描出が困難な肝細胞癌に対する治療ガイドとして有用である。 |
弱い |
CQ35 |
穿刺局所療法の効果判定に有用な画像診断は何か? |
穿刺局所療法の効果判定は,dynamic CT/MRI を推奨する。 |
強い |
CQ36 |
穿刺局所療法の治療効果予測因子は何か? |
腫瘍径,腫瘍マーカー値,焼灼マージンが穿刺局所療法の治療効果予測因子である。 |
なし |
第6 章 肝動脈(化学)塞栓療法 TA(C)E
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ37 |
TACE/TAE はどのような患者に行うのが適切か? |
腫瘍個数4 個以上,Child‒Pugh 分類のA~B,PS 0 のBCLC Stage B(intermediate stage)の手術不能でかつ穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞癌に対する治療法として推奨される。 |
強い |
門脈腫瘍栓を有するBCLC Stage C(advanced stage)の手術不能である多血性肝細胞癌に対する治療法として考慮されうる。 |
弱い |
CQ38 |
TACE/TAE において塞栓物質や抗癌剤の選択はどのように行うのが適切か? |
TACE/TAE においては,リピオドール® と多孔性ゼラチン粒(本邦ではジェルパート®)を使用したconventional TACE(cTACE)あるいは,薬剤溶出性の球状塞栓物質を用いたTACE(DEB‒TACE)が推奨される。 |
強い |
抗癌剤を併用する場合は,推奨される特定の抗癌剤はない。 |
弱い |
CQ39 |
再塞栓療法の時期を決定する因子は何か? |
多血性の局所再発の出現,他部位の新たな多血性肝細胞癌の出現が再塞栓療法の時期を決定する因子である。 |
強い |
CQ40 |
TACE の効果判定に有用な画像診断は何か? |
Dynamic CT もしくはdynamic MRI が推奨される。 |
強い |
CQ41 |
塞栓療法と分子標的治療薬を併用するのは適切か? |
塞栓療法と分子標的治療の併用は,生存期間延長の効果を示す十分な科学的根拠がないので推奨しない。 |
弱い |
CQ42 |
どのような場合にTACE 不応と考えるか? |
暫定的に以下の3 条件のいずれかを満たした場合をTACE 不応とみなしてもよい。①2 回のTACE を行っても標的病変の治療効果が不十分か,新たな肝内病変の出現 ②脈管侵襲,肝外転移の出現 ③腫瘍マーカーの持続的な上昇 |
弱い |
第7 章 薬物療法
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ43 |
切除不能進行肝細胞癌に分子標的治療を行うか? |
外科切除や肝移植,局所療法,TACE が適応とならない切除不能進行肝細胞癌で,PS 良好かつ肝予備能が良好なChild‒Pugh 分類A 症例に,一次治療としてソラフェニブまたはレンバチニブによる治療を推奨する。 |
強い |
二次治療として,ソラフェニブ治療後画像進行を認め,ソラフェニブに忍容性を示したChild‒Pugh 分類A の症例にレゴラフェニブによる治療を推奨する。 |
強い |
CQ44 |
切除不能進行肝細胞癌に肝動注化学療法は推奨されるか? |
外科切除や肝移植,局所療法,TACE が適応とならない肝内病変進行肝細胞癌では,肝動注化学療法による治療を行ってよい。 |
弱い |
CQ45 |
薬物療法の治療効果予測因子は何か? |
薬物療法において,科学的根拠のある治療効果予測因子はない。 |
なし |
CQ46 |
薬物療法の治療効果判定はどのようにするか? |
分子標的治療の効果判定においては,壊死部分と生存腫瘍部分を正しく評価する必要があるため,腫瘍内血流を考慮した基準を用いる。 |
強い |
CQ47 |
薬物療法の副作用とその対策は何か? |
汎血球減少を合併していることが多いため,殺細胞性抗癌剤の使用にあたっては,血液毒性に十分注意する必要がある。
分子標的治療では,各薬剤に固有の高頻度または重篤な副作用が報告されており,慎重に経過観察し,減量・休薬を含め適切に対処する必要がある。 |
強い |
第8 章 放射線治療
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ48 |
肝細胞癌に対する体幹部定位放射線治療は推奨されるか? |
他の局所療法の適応困難な肝細胞癌,およびTACE 不応例を含むさまざまな局所治療後再発例に対して,体幹部定位放射線治療を行ってよい。 |
弱い |
CQ49 |
肝細胞癌に対する,粒子線治療〔陽子線治療,重粒子(炭素イオン)線治療〕は有効か? |
他の局所療法の適応が困難な肝細胞癌に対して,粒子線治療〔陽子線治療,重粒子(炭素イオン)線治療〕を行ってよい。 |
弱い |
CQ50 |
肝細胞癌に対する,3 次元原体照射法による放射線治療はどのような場合に推奨されるか? |
門脈腫瘍栓症例や切除不能症例,内科的合併症などの理由で,他の標準的な治療法が適応とならない病態で,体幹部定位放射線治療や粒子線治療の適応が困難な場合には,3 次元原体照射法などによる放射線治療を行ってよい。 |
弱い |
第9 章 治療後のサーベイランス・再発予防・再発治療
No. |
クリニカルクエスチョン |
推奨 |
推奨の強さ |
CQ51 |
肝切除後・穿刺局所療法後,どのようにフォローアップするか? |
初発時の超高危険群に対するサーベイランスと同様に腫瘍マーカーと画像検査の併用によるフォローアップが推奨される。 |
強い |
CQ52 |
肝切除後・穿刺局所療法後の有効な再発予防法は何か? |
ウイルス肝炎に起因する肝細胞癌において,肝切除後や穿刺局所療法後の抗ウイルス療法は,再発抑制や生存率の向上に寄与する可能性がある。 |
弱い |
CQ53 |
肝移植後の有効な再発予防法は何か? |
肝移植後のmTOR 阻害薬による管理は肝細胞癌の再発を抑制する可能性がある。 |
弱い |
CQ54 |
肝切除後・穿刺局所療法後の再発に対する有効な治療法は何か? |
肝切除後・穿刺局所療法後の再発に対しては,初回治療時と同じ治療アルゴリズムの適応である。 |
強い |
CQ55 |
肝移植後の再発に対する有効な治療法は何か? |
肝移植後の再発に対しては可能であれば再発病巣の切除を,不可能であれば分子標的治療薬を考慮してもよい。 |
弱い |