総論
1.目的
エビデンスとコンセンサスに基づき,肝細胞癌の本邦における標準的サーベイランス法,診断法と治療法を提示する。なお,本邦の原発性肝癌の90%以上は肝細胞癌であるため,本ガイドラインで用いる「肝癌」は肝細胞癌のことを意味する。
2.使用法
本ガイドラインは系統的文献検索で得られたエビデンスを尊重するとともに,本邦の医療保険制度や診療現場の実情にも配慮した肝癌診療専門家のコンセンサスに基づいて作成されており,診療現場において肝細胞癌の治療を実践する際のツールとして利用することができる。具体的には個々の症例のサーベイランス,診断,治療方針を立てるための参考となり,患者・家族へのインフォームド・コンセントの場でも活用できる。ただし,本ガイドラインは肝癌に対する診療方針を立てるための一つの目安を示すものであり,記載されている以外の診療方針や治療法を規制したり,医師の裁量権を制限したりするものではない。患者,施設・地域に特有の条件・事情により,診断,治療方針が変わりうることもできるだけ勘案した推奨を掲げているので,その点を考慮して,推奨内容を参照いただきたい。
また,本ガイドラインは医療訴訟などでの参考資料となることを想定していない。本ガイドラインの記述内容については日本肝臓学会が責任を負うものとするが,個々の治療結果についての責任は直接の治療担当医に帰属すべきもので,日本肝臓学会およびガイドライン改訂委員会は責任を負わない。
3.対象
原則として,肝癌の診療に携わる肝臓専門医・一般医師を含むすべての臨床医を対象とする。
4.書名変更
2017 年5 月24 日の日本肝臓学会企画広報委員会(持田智委員長)にて,本ガイドラインの正式書名は「日本肝臓学会編 肝癌診療ガイドライン2017 年版」とすることが正式に決定された。
5.今後の改訂
本ガイドラインは日本肝臓学会企画広報委員会が設置した肝癌診療ガイドライン統括委員会の方針に基づき改訂委員会が組織され,原則的に4 年ごとに改訂を行う。ただし,日常診療に重大な影響を及ぼす新知見が確認された場合は,改訂に先んじて日本肝臓学会から速報を出すなどの対応を考慮するものとする。
6.公開
本ガイドラインが日本全国の肝癌診療現場で広く活用されるために書籍として出版し,日本肝臓学会などのホームページで公開する。
7.一般向けの解説
旧版の一般向け解説は日本医療機能評価機構医療情報サービス(Minds)に公開されている()。
8.資金
本ガイドライン2017 年版(第4 版)の作成に要した資金は日本肝臓学会の支援によるものであり,その他の組織や企業からの支援は一切受けていない。
9.利益相反
各clinical question(CQ)に対する推奨決定会議(2017 年3 月20 日,4 月6 日,4 月13 日,7 月7 日の合計4 回実施)の第1 回会議前にすべての委員・専門委員から利益相反(COI)を日本肝臓学会事務局に提出いただいた。
改訂作業の実際(各論)
1.作成法
- ① 統括委員会:本ガイドラインは初版(2005 年版)が厚生労働省診療ガイドライン支援事業のサポートを受け作成された後,日本肝臓学会に改訂作業が引き継がれ,第2 版(2009 年版),第3 版(2013 年版)と4 年ごとに新しいエビデンスを取り入れて改訂されてきた。第4 版(2017 年版)は日本肝臓学会企画広報委員会に設置された肝癌診療ガイドライン統括委員会(参照)によって改訂委員会の委員と改訂方針が決定された。
- ② 作成の基本方針:初版,第2 版,第3 版同様にevidence based medicine(EBM)の基本理念に基づき,客観性と再現性を担保する基本方針は踏襲する。エビデンス一辺倒ではなく,患者の益と害のバランスや社会条件なども考慮するよう,新たに一部GRADE システムの概念を導入する。ガイドラインの理念・目的・対象などを総論として明確に示す。COI を明記し,外部評価は発刊前に実施して,その結果を本体に掲載する。以上の基本方針が2015 年7 月21 日の統括委員会にて決定された。
- ③ 2015 年10 月に改訂作業が開始された。改訂委員会の構成は日本肝臓学会会員の肝癌診療専門家が中心となり,外科医7 名,内科医7 名,放射線科医5 名,臨床統計学者1 名で構成された(参照)。さらに,委員を補佐する専門委員を20 名,さらに実際の作業を分担していただく実務協力者16 名に協力を仰いだ(参照)。
- ④ 作成の原則:以下の4 回にわたり,改訂委員会を開催し,改訂の手順や細部の方針を決定した。EBM の方法論を尊重するものの,エビデンスとコンセンサスの間をつなぐために新たに一部GRADE システムを導入し,システィマティクに推奨を決定した。系統的論文検索は2016 年6 月末のePub 公表分まで行い,それ以降に発表された重要なエビデンスについては個別に評価し,日常臨床へのインパクトが大きい場合のみ例外的に採用した。論文のみならず,米国臨床腫瘍学会(ASCO)などの重要学会での抄録も対象に含めることにした。海外で有効性が認められているが,日本で現実的には実施不能な治療については,推奨の形はとらないが,本文中で解説を加えることにした。
第1 回委員会:2015 年10 月20 日(日本肝臓学会事務局)
第2 回委員会:2015 年12 月25 日(日本肝臓学会事務局)
第3 回委員会:2016 年9 月22 日(ホテル日航金沢)
第4 回委員会:2017 年1 月14 日(イイノホール&カンファレンスセンター) - ⑤ 記載方法:治療アルゴリズムを支えるCQ を新たに設定し,エビデンス総体を評価したうえで,推奨を決めることにした。それらは第2 章にまとめた。サーベイランス・診断(アルゴリズム含む)と治療アルゴリズム,続いて肝細胞癌の予防,手術,経皮的局所療法,肝動脈化学塞栓療法,薬物療法,放射線治療,治療後のサーベイランス・再発予防・再発治療という9 つの章立てとした。第3 版のclinical question(CQ)57 を再検討し,廃止・統合・新設などの作業を行い,第4 版では55 のCQ とした。改訂のなかった,あるいは微修正にとどまったCQ は30 件で,13 件の改訂が行われ,12 件のCQ が新設された。
- ⑥ エビデンスレベル,推奨の強さ:ガイドライン作成の原則は初版,第2 版,第3 版同様にEBM の方法論を尊重したが,今回は個々の文献のエビデンスレベルの評価は行わなかった。また,エビデンスとコンセンサスの間をつなぐために新たに一部GRADE システムを導入して推奨を決定した。推奨決定会議での議論はできるだけ本文に記載するようにした。
- ① まず,各CQ について,主副の2 名の担当者を決めた。主担当がそのCQ に関する責任をもつが,副担当の目を通すことで,客観性を保ちつつ,漏れや見落としを防ぐ目的がある。
- ② 数個のキーワードを選定し,国際医学情報センター(IMIC)に検索式を策定してもらった(一部CQ では委員が策定した)。主副担当は独自に必須文献をあらかじめ選定しておき,検索式による文献検索により,その文献が含まれるかをチェックした。すべて含まれていれば,検索式の妥当性が確認されたと解釈し,含まれなかった場合は,検索式の修正を行った。
- ③ 検索式により抽出された文献のなかから主副担当で独立して,一次選択を行った。お互いの判断を突き合わせ,過不足を調整し,最終的な一次選択文献を決定した。
- ④ 一次選択文献を入手し,その内容をチェックし,主副担当で独立して,二次選択を行った。お互いの判断を突き合わせ,過不足を調整し,最終的な二次選択文献を決定した。
- ⑤ 二次選択文献を主副担当で独立して読み込み,改訂委員会で定めたAbstract Table を作成した。Abstract Table では最終的にガイドラインの推奨や解説に載せる文献の採否も記載し,主副担当の意見を突き合せ,合議により,最終採否を決定した。
- ① Abstract Table の完成したCQ につき,推奨文案を主副担当の合意のもと,作成した。
- ② 委員と専門委員で構成される推奨決定会議(日時と場所は以下の通り)にてAbstract Table と推奨文案が提示され,文言の修正と推奨の程度が合議の末,決定された。推奨の程度は委員と専門委員の挙手により,4 つのカテゴリー(強く推奨,弱く推奨,弱く推奨しない,強く推奨しない)のいずれかに決定した。意見が分かれた場合,議論を積み重ねたのちに,再度挙手により決定した。それでも結論に至れない場合,最終推奨決定会議にvoting を行うことを想定していたが,最終的に,voting まで至ったCQ はなかった。
第1 回推奨決定会議:2017 年3 月20 日(東京大学医学部附属病院)
第2 回推奨決定会議:2017 年4 月6 日(日本外科学会事務局)
第3 回推奨決定会議:2017 年4 月13 日(日本外科学会事務局)
第4 回推奨決定会議:2017 年7 月7 日(京王プラザホテル) - ① 推奨決定会議の議論の内容はできるだけ解説文に盛り込むこととし,主副担当で分担して対処した。
- ② 項目だてを統一し,記載内容を以下のように定義した。
- 背景:CQ の狙いのようなものを簡単に示す。
- サイエンティフィックステートメント:文献検索の過程から一次選択,二次選択の基準と結果,選択した論文の内容を簡単にまとめる。基本的に内容をそのまま記載し,解釈は加えない。事実のみを客観的に述べる。
- 解説:担当委員の解釈を加える。選択した論文でも推奨に生かすとは限らないので,どのような趣旨で生かしたのか,あるいは生かさなかったのかをできるだけ記載する。推奨決定会議の議論はここに反映させる。意見が分かれたなら,それも記載してよい。選択されなかった参考文献の引用も可能とした。
2.文献検索と選択の方法
3.推奨の決定
4.本文執筆
5.公聴会
2017 年7 月7 日,第53 回日本肝癌研究会にて公聴会を開催した(座長:國土典宏改訂委員長,工藤正俊改訂委員)。
6.パブリックコメント
2017 年7 月7 日~7 月21 日の期間,日本肝臓学会ホームページに診断と治療アルゴリズム,各CQ とそれに対する推奨・本文を掲載し,パブリックコメントを公募した。その情報は日本肝臓学会と日本肝癌研究会のホームページに掲載するとともに,日本肝臓学会理事・評議員と日本肝癌研究会常任幹事・幹事に対し,それぞれの事務局からメールで周知した。
7.外部評価
佐野圭二帝京大学外科教授を委員長とした外部評価委員会(参照)を設置し,外部評価を実施していただいた。